穀田屋十三郎家訓(「無私の日本人」より)

 

 

 

穀田十三郎 家訓

ひとつ、わしのしたことを人前で語ってはならぬ。

 

 

 

 

 

 

穀田屋 十三郎(こくだや じゅうざぶろう)

生誕:1720年

死没:1777年

 

陸奥国今村(現:宮城県黒川郡大和町)の篤志家で商人。酒の穀田屋の前身。「穀田屋」は屋号で、本名は高平十三郎

 

2012年(平成24年) 歴史家・磯田道史によって「無私の日本人」という江戸時代を生きた3人の人物の評伝で、そのうちの1人として、当時の吉岡宿の様子を通して穀田屋十三郎が紹介された。2016年には、映画化され『殿、利息でござる!』として、更なる話題を振りまいた。

 

仙台藩に連なる吉岡宿では、重税に苦しみ宿場は疲弊したいた。そんななか、吉岡宿の衰退に心を痛めていた造り酒屋の穀田屋十三郎は茶製造家の菅原屋篤平と組んで、住民の貧困をなんとか救いたいという思いから、黒川郡の大肝煎の千坂仲内に相談を持ち掛けるなどして賛同を得、同志を募り、9名で小銭を蓄え、何度も藩への願い上げを重ね、台所事情の悪化していた仙台藩に1000両という大金を貸付けて、1773年頃から毎年その利子を受け取り、宿場のすべての人々に配分した。

 

事実は小説より奇なり

江戸時代の日本は、封建社会のまっただなかであり、とくに「士農工商」に代表される身分制度は岩盤のような硬さのあった時代です。しかしそんな江戸時代にあって、商人たちはしたたかに時代を渡り、そして作っていきます。

 

歴史家・磯田道史によって再発見された吉岡宿の穀田十三郎をはじめとする9名の篤志家たちは、殿様に千両もの金を貸し付けその利子をもって、貧しい町民に配るという奇想天外な策を思い立ち実現させます。その過程では、打ち首覚悟の交渉に加え、千両もの金を用意するために家業を圧迫させながらも、篤い志は成就することになったのでした

 

穀田たちの挑戦は、吉岡宿を潤わせることとなりました。圧政に苦しむ庶民が逆転の発想で、殿さまに金を貸しつけるというのも空前絶後ならば、もらった利子を元本の返済(本業に還流)させるのでなく、地域に配ったというのも大胆すぎる選択です。金は天下のまわりもの・・・といってもなかなかできない選択を東北の寒村の男たちが実現させたことに、ただただ感服するばかりです。

 

穀田十三郎 家訓

ひとつ、わしのしたことを人前で語ってはならぬ。わが家が善行を施したなどと、ゆめゆめ思うな。何事も驕らず、高ぶらず、地道に暮らせ

ひとつ、これからも吉岡のために助力を惜しんではならぬ。商売がつづくのは、皆々さまのおかげと思うて、日々人様に手をあわせよ

ひとつ、茶を売れ 

 

※「茶を売れ」とは、吉岡宿の発展のため穀田らが立ち上げた新規事業。

  地域の永続的な発展のための穀田らしい遺言(家訓)の1つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穀田家の現在

酒の穀田屋(さけのこくだや)は、江戸時代、1700年代後半の仙台藩吉岡宿の篤志家、穀田屋十三郎(高平重三郎)の流れを汲む宮城県黒川郡大和町にある酒店です

 

吉岡で、9軒の篤志家のなか、平成の世にも吉岡で商いをつづけているのは、穀田家だけといわれています。いまも9人の男たちの偉業は地域で語り継がれる中、高平家では、先祖からの家訓を守り、十三郎の功績を口外しないよう戒めをまもっているそうです。

 

 金を出した9人は、自分の行った行為を善行ととったり口外したりすることを子々孫々にいたるまで禁じ、「つつしみの掟」として守りとおした。その証拠に、彼らの偉業は世に知られず、磯田がこの本を出版した後も、名乗り出る子孫は誰ひとりいなませんでした。

〈ほんとうに大きな人間というのは、世間的に偉くならずとも金を儲けずとも、ほんの少しでもいい、濁ったものを清らかなほうにかえる浄化の力を宿らせた人である〉  磯田はあとがきにこのように書いています。

 

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古文書を読んで泣いた!?磯田先生が語る執筆の理由

 

(参照:文春オンライン) 

http://bunshun.jp/articles/-/171?page=2

  

 『無私の日本人』は、わたしの奇妙な体験からうまれている。説明するとこういう経緯である。『武士の家計簿』を書いてから10年ちかくが経ち、この作品は映画化もされた。映画はさすがに故森田芳光監督によるものだけあってヒットして150万人もの人が見てくれた。幕末に加賀藩ソロバン役人の猪山家という武士が借金を抱えたことにより家族が一致団結し、質素倹約をはじめる。見栄っ張りで華美な消費をやめて、地道に働き、子どもをしっかり教育して、明治維新という新時代の成功者になっていく「解決」の物語であり、『武士の家計簿』は原作も映画も作品としては、これ以上ないほどに、幸運な道をたどった。申し分ないはずであった。

 

 ところが、わたしは、どうも落ち着かない。映画が悪いというわけではない。『武士の家計簿』で書いた「苦境に至った時、人は現状を嘆いても仕方がない。人に必要とされるような技術・知識を身に着けることで生き延びていかなくてはならない」という原作のメッセージ自体は、いまでもその通りだと思う。しかし、あれは「解決」なのだろうか、と思ったのである。倹約して猪山という1個の家族が豊かになっただけで、本当は何の解決にもなっていないのではないか。幕末日本の本当の問題は、武士の国家というものが、戦もないのに多量の人員を抱え、将来の幸福にはまったくつながらない、形式的儀礼に農民から取り立てた年貢を費やしつづけていた、ということであった。しかし、猪山はそのことに何の関心ももたない。ひたすら勉強して子供をよい学校に入れ、就職させ、ともかく自分の家族がしっかり食えるようにすることに関心をもっていた。

 

 結局、『武士の家計簿』は、自分の家族が食べていけるか、であって、日本全体がどうなるか、という広い視点はなかった。猪山家の「解決」にはなっているけれども、日本の解決にも人類の普遍的な解決にもなっていない。どこか間違っている。どこか足りない。そう思うようになった。そこへきて、この10年で、この国をとりまく環境が大きく変わった。中国の国内総生産は4倍になり、韓国の国民1人あたり所得はあと10数年で日本を追い抜くという試算までが出るようになってきた。中世以来、日本は500年ぶりに大陸より貧しくなるかもしれない。日本人の生き方の哲学が問われている。

 

そんなとき、見ず知らずの人から便りがきた。「自分は東北に住む老人である。『武士の家計簿』を読み映画も見た。実は、自分の町吉岡宿にこんな話が伝わっている。涙なくしては語れない。ほんとうに立派な人たちの話である。この人たちの無私の志のおかげで、わたしたちの町は江戸時代を通じて、人口も減らず、今にいたっている。磯田先生に頼みたい。どうか、この話を本に書いて後世に伝えてくれないだろうか」。そういう内容であった。差出人をみると「宮城県黒川郡大和町吉岡・吉田勝吉」と書いてある。はじめは奇妙だと思った。ところが、妙に気にかかる。わたしは引き込まれるように調べはじめた。東京大学農学部の図書館で仙台叢書を閲覧し『国恩記』という詳細な記録をみつけた。

 

『国恩記』の内容は想像を絶していた。読んで泣けた。わたしは歴史学者でもあるから、古文書を読むときは、たいてい冷静である。これまで、古文書を読みながら、はらはらと両眼から涙を流すなどということはなかった。穀田屋(こくだや)十三郎・遠藤甚内という恐るべき兄弟がみちのくの吉岡宿におり、ひろい視点で物事を考えていたことを知った。この世にもともと他人事というものはない。みんなで幸せになれる手段(たずき)を模索していた。この兄弟に江戸時代の社会矛盾をはっきり認識した高い思想を感じた。

 

 吉田勝吉さんに会いに行こうと思った。ところが、あの大震災が起きた。大和町は停電し町長がパン工場に電話をかけて食料を確保し、町民の飢えをしのぐほどの事態になった。落ち着いてから、わたしは吉岡へ行き吉田さんを探した。「元町議の吉田さんは……」。ところが、そういうと町の人の顔が曇った。震災で亡くなったのかと血の気が引いたが違った。「吉田さんはご病気が重くて……」。入院されたのだという。わたしは吉田さんがこつこつ編纂されたという『国恩記覚』という冊子を手渡され、仕方なく東京に帰った。新幹線のなかでむさぼり読むと遠藤甚内の墓石の拓本までとっていて老人の執念が感じられるまさに労作の史料集であった。わたしは憑かれたように『無私の日本人』を書いていった。ようやく本が書きあがって「あとがき」を書いていたそのとき、大和町教育委員会から知らせがきた。「吉田勝吉さんが亡くなりました」。とうとう会うことはかなわなかった。あとできけば、吉田さんは生涯かけて『国恩記』の史料を集めてこられたという。死の足音を感じて、バトンをわたしに渡したのだろう。『無私の日本人』は書こうと思って出来た本ではない。いまのままではいけないと憂うる人の心が、わたしに自然に書かせた本である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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発売日: 2015年6月1日

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